北村行政書士事務所

相続人 相続の効力

相続人、相続の効力

相続人は相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りではない(民§896)
 
「相続させる」旨の遺言によって法定相続分を超える不動産を承継した相続人はその法定相続分を超える部分の権利の取得を第三者に対抗するのに登記を必要とするか?
従来の判例によれば登記なくして第三者に対抗することができるとされていましたが、平成30年の民法一部改正により、相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分については、登記がなければ第三者に対抗することができないことになりました(民899の2-Ⅰ)
なお、相続した権利が債権である場合において法定相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(もしくは遺産分割の内容)を明らかにして債務者にその承継を通知したときは、共同相続人の全員が債務者に通知したものとみなされます(民§899-2Ⅱ)

占有権は相続の対象になるか?
相続人が現実に相続財産を支配するに至ったかどうかに関係なく、被相続人が有していた占有権は相続人に承継されます(最判昭和28年4月24日)

建物を賃借していた者が死亡した場合、内縁関係の同居人が賃借権を承継することはあるか?
死亡した者に相続人がいない場合において、婚姻や縁組の届をしていないだけで内縁関係や事実上の親子関係にあった同居人は賃借権を承継することができます。ただし死亡を知った日から1か月以内に賃貸人に反対の意思を表示した時はこの限りではありません(借地借家法§36-Ⅰ)
死亡した者に相続人がいた場合であっても、内縁関係などにある人は現住者の居住の確保に関して、死亡した者の相続人の賃借権を援用すること援用することを認められていますので、内縁関係などにある同居人は賃借権を相続することはなくとも、相続人の賃借権を援用し、賃貸人から退去を求められた場合でもこれを拒むことができます。
(最判例昭和37年12月25日)

保証債務は相続の対象となるか?
債務の額が確定している通常の保証債務は相続されるが、身元保証契約上の債務などは相続の対象になりません。

形成権は相続の対象となるか?
取消権、解除権なども相続の対象となります。形成権とは一方的な意思表示により法律関係を生じさせる権利のこと言います。

前妻の子と後妻の子とで相続分は異なるのか?
異なりません。

婚姻による子と婚姻によらない子(認知しただけの子=非嫡出子)とで相続分は異なるのか?
異なりません。
ちなみに平成25年に民法が改正される前までは婚姻によらない非嫡出子の相続分は婚姻による子(嫡出子)の半分とされていましたが、この規定は削除されました。


実の子と養子で相続分は異なるのか?
異なりません。実の子も養子も子であることに変わりはないからです。

配偶者と直系尊属が相続人である場合の相続分は?
配偶者は3分の2、直系尊属は3分の1(民§900②)
直系尊属が被相続人の実の親と養親と複数人のケースにおいて実親と養親とでその相続分に違いはありません。

配偶者及び兄弟姉妹が相続人である場合のそれぞれの相続分はどうなるか?
配偶者の相続分は4分の3、兄弟姉妹の相続分は4分の1(民§900③)

被相続人Aの相続人が、配偶者B並びに父母を同じくする兄弟であるC及び母のみを同じくする兄弟であるDEである場合、BCDEの相続分の割合はどうなるか?
B4分の3、C16分の2、D及びE16分の1です。配偶者と兄弟姉妹が相続人であるときは兄弟姉妹の相続分は4分の1ですが、父母の一方を同じくする兄弟姉妹(いわゆる半血兄弟)の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1となるので(民§900③④但書)、被相続人Aの半血兄弟であるD、Eの相続分はCの相続分の半分になります。
計算式としては以下のようになります。
兄弟姉妹の相続分4分の1をC:D:E=2:1:1になるように分けるので、
Cの相続分は1/4×2/4=2/16
Dの相続分は1/4×1/4=1/16
Eの相続分は1/4×1/4=1/16

代襲相続人Aには嫡出子Bを代襲して相続人となったDEと嫡出子Cがいる。DECの相続分の割合はどうなるか?
代襲相続人が取得する相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとなるので、Bが受けるべきであった相続分をDEで分け合うことになります(民§900-Ⅰ)。
よってDECの相続分の割合は1:1:2となります。

相続人としての資格が重複する場合は二重に相続分を取得出来るのか?
事例1
たとえばAには配偶者Bとそのあいだの子CとDがいたとします。Cには子Eがいて、Eは
Aの養子でもあるケースです。実際EはAから見て孫でもあります。この場合CがAよりも早く(もしくは同時に)死亡した場合に、EはAの相続についてCの代襲相続人としての地位とAの養子としての地位があり、その意味で相続人としての資格が重複するということになります。代襲相続人の地位と養子の地位で相続人としての資格が重複した場合はEはふたつの地位で相続分を取得することができます(昭26.9.18民甲1881)。
この事例では各人の相続分は
Bが1/2
Dが1/6
Eが2/6となります
(Eは代襲相続人として1/6を、養子として1/6を取得するので合わせて2/6というわけです)

事例2
たとえばAが配偶者Bの親と養子縁組したケースです。この場合AとBは婚姻関係にありつつ同時に兄弟姉妹の関係にもなります。Aには配偶者Bと実の兄C以外に生存している親族が誰もいないとします。ここでAが死亡した場合、配偶者Bは事例1のように相続人としての資格が重複するのか?という問題です。答えは「重複しない」です。配偶者Bは配偶者としての地位と兄弟姉妹としての地位がありますが、先例では配偶者としての地位でしか相続人の資格がありません。よってAが死亡した場合のBとCの相続分は
Bが3/4
Cが1/4となります

指定相続分とは?
被相続人が遺言によって、法定相続分とは異なる相続分を定め(もしくは定めることを第三者に委託し)、そのようにして定められた相続分を指定相続分といいます(民§902-Ⅰ)。
たとえば被相続人Aの配偶者Bと子C、Dが共同相続人だった場合、法定相続分に従えば、B1/2、C1/4、D1/4となりますが、遺言によってこれをB1/3、C1/3、D1/3と均等に定めたり、B1/4、C1/2、D1/4のように定めたりすることが出来るようになります。このように遺言で定められた相続分を指定相続分といいます。
指定相続分は法定相続分に優先します。
もし被相続人が共同相続人の一部の者についてのみ相続分を指定した場合、他の共同相続人の相続分はどうなるかについてですが、その場合は残りを法定相続分で分け合うことになります(民§902-Ⅱ)。

被相続人が債務を負ったまま死亡し、共同相続人A、Bがその債務を相続分の指定に従って相続した場合(共同相続人はABのみ)、債権者は相続人に対して相続分の指定の割合でしか請求できないか?
たとえばA:B=1:2の割合で相続分の指定がされた場合、債務の負担も1:2となり、仮に債務が1200万円だとすると、債権者はAに400万円、Bに800万円請求することになるのか?という問題ですが、原則は、債権者は相続分の指定という債務者側の都合に縛られることなく、法定相続分通り1:1の割合でAに600万円、Bに600万円請求することが出来ます(民§902の2本文)。
ただし債権者が指定された相続分に応じた債務の承継を承認した場合はAに400万円、Bに800万円請求することになります(民§902の2但書)

特別受益者とは?
共同相続人の中に被相続人から遺贈を受け、または婚姻もしくは養子縁組のためもしくは生計の資本として贈与を受けた者のことをいいます。このような受益を考慮しないで相続分を計算すると相続人間に不公平が生じますので公平をはかるために、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし
ひとまず遺産を分け合うことになります。
以下具体例
被相続人A 共同相続人は配偶者B、子C、D、E
相続開始時のAの財産900万円とします。
法定相続分通りに分ければ
B450万円、C150万円、D150万円、E150万円となりますが、
子Cは結婚の際に200万円の贈与をAから受けていた
子Dは生計の資本として100万円の贈与をAから受けていた
としたら不公平が生じます。
そこで、Aの財産900万円に生前に子C,Dそれぞれに贈与した200万円、100万円を加えて、相続開始時のAの財産を1200万円とみなします(これをみなし相続財産といいます)。いうなれば、相続分を前渡し的に受けてる者が受けた利益の額を相続開始時の財産に加えたものを相続分算定の基礎とすることによって、生前贈与を受けた相続人と受けてない相続人との間の公平をはかるのです。
このケースでみなし相続財産は1200万円ですから
B600万円、C200万円、D200万円、E200万円となります。
そしてCは200万円を、Dは100万円を生前に贈与を受けているので、
Cはもはや受けるべき相続分はなく、Dは200万円から100万円を控除した残額である100万円が具体的相続分になります。
最終的に
B600万円
C0円
D100万円
E200万円となります

遺贈または贈与の価額が相続分を超える場合、受遺者または受贈者は相続分を超えて得た利益を他の相続人に分与する必要はあるか?
分与する必要はありません。仮に分与する必要があったとしても、その相続人は相続の放棄によってその義務を免れることが出来てしまいますし、また分与させることは被相続人の意思にも反することになるからです。

被相続人は持戻しを免除する意思表示を
することは出来るか?
免除することが出来ます(民§903-Ⅲ)持戻しとは特別受益者が受けた利益を遺産に戻すことをいいます。生前贈与に関する持戻しの免除の意思表示については特別の方式を要求されていませんが、遺贈に関する持戻しの免除の意思表示は、遺贈が遺言によってされてる以上、遺言によってすべきことになります。

持戻しの免除の意思表示が推定される場合とは?
婚姻生活が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物またはその敷地について遺贈または贈与したとき(民§903-Ⅳ)。

寄与分
共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、民法900条~民法902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。

ABは夫婦であり、C、D二人の子供がいるとします。
Aが1500万円の財産を遺して死亡
BCDの協議によって1500万円のうち300万円はCの寄与によるものとされた。

まず寄与分とされた300万円を1500万円から控除し、1200万円がみなし相続財産となります。

みなし相続財産(1200万円)をもとに各相続人の相続分を法定相続分に従って計算します。
すると
B600万円
C300万円
D300万円
となりますが、これに寄与分とされた300万円をCに加えるので、
結果、
B600万円
C600万円(300万円+寄与分300万円)
D300万円
となります。

寄与分はどのように決定するのか?
共同相続人の協議で定めるのが原則ですが、協議が調わなければ家庭裁判所の審判によります(民§904の2-Ⅰ、Ⅱ)。
なお、904条の2の寄与分は被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができません(民§904-2のⅢ)。たとえば3000万円の相続財産があったとして、そのうちの1000万円が遺贈されていた場合、寄与分は2000万円を超えて定めることができません。寄与分よりも遺贈が優先されます。


配偶者の日常の家事労働は「特別の寄与」にあたるか?
あたりません。「特別の寄与」とは「通常の寄与」と区別する趣旨であり、配偶者の通常の家事労働は特別の寄与とはみなされていません。配偶者の通常の家事労働については、通常の寄与として、配偶者の相続分が他の血族相続人の相続分より多く定められているように、法律の規定によって既に織り込み済みとされています。ただし配偶者である妻が通常の家事の他に夫の商売や農業に従事したような場合に特別の寄与が考慮される場合があります。



共同相続人以外の者について、民法904条の2の寄与分が認められることはあるか?
民法904条の2の寄与分の制度は、特別の寄与をした相続人と他の相続人との公平を図るための制度なので、共同相続人以外の者には認められない。相続人と同一の権利義務を有するとされる包括受遺者も共同相続人ではないので、民法904条の2の寄与分は認めれられません。

~特別寄与者とは?~
共同相続人以外の者が、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした場合、その者は何らかの財産的利益を受けることはできるか?
相続人でなくとも、被相続人の親族であり、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者(特別寄与者)であれば、相続の開始後、相続人に対して寄与に応じた額(特別寄与料)の金銭の支払いを請求することが出来ます(民§1050-Ⅰ)。ちなみに親族とは民法上の定義では、その人から見て配偶者、6親等以内の血族、3親等以内の姻族となります(民§725)。姻族とは簡単にいえばその人から見た血族の配偶者のことです。
なお、相続の放棄をした者、相続欠格事由に該当する者、または廃除によってその相続権を失った者は、相続人ではない被相続人の親族ということになりますが、これらの者は特別寄与者とはなりません(民§1050-Ⅰ)。

民法1050条の特別寄与料の支払いに関する事項はどのようにして定めるか?
民法1050条の特別寄与料は相続人が特別寄与者に対して支払うことになりますが、支払いに関する事項は当事者の協議によるのが原則になります。協議が整わない場合、特別寄与者は家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することが出来ますが、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月を経過した時、または相続開始の時から1年を経過した時はこの限りではありません(民§1050-Ⅱ)。
特別寄与料の上限の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることが出来ません(民§1050-Ⅳ)。
相続人が数人ある場合には、各相続人は特別寄与料の額に民法900条から902条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担することになります(民§1050-ⅴ)。

相続分の譲渡とは何か?
共同相続人は遺産分割が終わるまでは遺産に対する自己の権利を自由に処分することが出来ません。そこでなるべく早く自己の権利を処分したいという者の便宜を考慮した制度として、「相続分の譲渡」という制度があります。「相続分の譲渡」は他の共同相続人の同意なしにすることが出来ます。譲渡する相手は同じ共同相続人でも、第三者でも構いません。
第三者に相続分を譲渡した場合、他の共同相続人に何か打つ手はあるのか?
相続分を第三者に譲渡すると、理屈の上では、その第三者が遺産分割協議に参加することになるわけですが、遺産の管理や分割に他人が加われば一般的に考えて紛糾をきたす恐れがあります。そこで次のような規定があります。
民法§905(相続分の取戻権)
 共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることが出来る。
2 前項の権利は一箇月以内に行使しなければならない。

遺産分割から共同相続人以外の第三者を廃除する趣旨の規定です。
ですので、共同相続人のあいだで相続分の譲渡をした場合、他の相続人は取り戻しをすることはできません。たとえばA、B、Cの3人の共同相続人がそれぞれ3分の1ずつ相続分を持っている場合、AがBに相続分を譲渡すると、相続分はAはゼロ、Bは3分の2、Cは3分の1となり、Cは取り戻しをすることは出来ません。

遺産の分割をするための基準のようなものはあるのか?
遺産の分割は。遺産に属する物または権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする(民§906)

遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合は?
遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産分割の時に遺産として存在するものとみなすことができます(民§906-2-Ⅰ)。遺産の処分が共同相続人の1人または数人によってされたときは、当該相続人の同意を得なくても、当該処分された財産が遺産の分割の時に遺産として存在するものとみなすことができます(民§906-2-Ⅱ)。

遺産の分割が禁止される場合とは?
①被相続人が遺言によって分割を禁止している場合。
被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない範囲を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。(民§908-Ⅰ)

②共同相続人の合意によって分割を禁止した場合。
共同相続人は、五年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割をしない旨の契約をすることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。(民§908-Ⅱ)

③家庭裁判所の審判によって分割が禁止された場合。
遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができます(民§907-Ⅱ)。この場合、特別の事由があるときは、家庭裁判所は、五年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができます(民§908-Ⅳ)。

Aが死亡し、その配偶者Bと子Cと子Dが相続人となったが、遺産分割協議が成立する前にBが死亡した場合はどうなるのか?
この場合、Bの相続人としての地位をCとDが相続することになります。
Aを相続するBの「相続人としての地位」をCとDがさらに相続するのです。
(まずAが死亡)
この時点でのAの相続人は
「B」
「C」
「D」
(次に遺産分割をする前にBも死亡)
するとAの相続人は
(「Bの相続人としての地位」を相続する)「C」と「D」
「C」←C固有の地位として
「D」←D固有の地位として
BがAを相続する地位を相続するCとDですが、この地位をどのくらいの割合で
相続するかは、当然に法定相続分で帰属するわけではなく遺産分割の対象となるということです(判例平成17.1011)。

遺産分割はどのような方法で行われるか?
①遺言による方法(民§908)
②共同相続人の協議による方法(民§907-Ⅰ)
③協議が調わないか、協議をすることができないときは、各共同相続人は家庭裁判所に分割を請求することができる(民§907-Ⅱ)

被相続人は、遺産分割の方法を遺言によらないで指定することは出来るか?
遺産分割の方法の指定は必ず遺言によってしなければなりません。なお、遺言によって直接指定しなくとも、遺言によってこれを定めることを第三者に委託することができます(民§908)

被相続人が遺言によって、相続人の1人に「A土地を相続させる」旨の遺言をしていた場合、当該遺言はどのように評価されるか?
特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」という趣旨の遺言は、遺言の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか、または遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法が指定されたものであると解される(最判平3.4.19)

共同相続人中に、親権者とその親権に服する未成年者がいる場合において、遺産分割協議をする場合、必要となる手続きは?
未成年者のために特別代理人を選任し、その特別代理人と親権者とで協議することとなります。通常、親は子の法定代理人としてさまざまな法律行為の代理人となるわけですが、遺産分割協議(という法律行為)の代理人となってしまうと、利益相反行為に該当してしまうからです。
また未成年者の子が複数いる場合は、その子、一人につき一人ずつの特別代理人を選任する必要があります。
(民§826-ⅠⅡ)

共同相続人中に、不在者がいる場合において、遺産分割協議をするときは、どのような手続きを取る必要があるか?
不在者に財産管理人がないときは、財産管理人の選任請求をし(民§25-Ⅰ)選任された財産管理人と他の共同相続人との協議で遺産分割協議をします。その場合は財産管理人が協議をするには家庭裁判所の許可が必要になります(民§27)。

遺産分割の効力はいつ生じるか?
相続開始の時にさかのぼって生じますが、第三者の権利を害することはできません(民§909)

遺産分割の終了後に認知された子があらわれた場合どうなるか?
被相続人が死亡前に認知していたのであれば、その認知された子は遺産分割のやり直しを請求することができます。遺産分割は共同相続人全員で行う必要があるため、共同相続人の1人を除外してされた遺産分割は無効となるからです。
では認知が被相続人の死亡後に確定した場合はどうなるかですが、この場合、認知された子はすでに終了した遺産分割のやり直しを請求することは出来ず価額のみによる支払いの請求をすることができます(民§910)。
認知が被相続人の死亡後に確定する場合とは、遺言によって認知された場合(民§781-Ⅱ)死後認知(子、その直系卑属またはこれらの法定代理人がおこなう認知の訴え)により認知された場合(民§787)があります。

共同相続人間の担保責任とは?
遺産分割は、共同相続人間において、共有財産を相互に交換し合う契約をするのと同視することが出来るので、売買の規定にしたがって売主と同様の担保責任を負わせることが出来ます(民§911)。
また遺産分割によって債権を取得した共同相続人が債務者の無資力により弁済を受けられなかった場合にも他の共同相続人は責任(遺産分割の時における債務者の資力を担保する責任)を負います(民§912-Ⅰ)。
債権の売買においては特約のない限り売主は債務者の資力を担保しませんが(民§569)遺産分割により債権を取得した者が、たまたまその債権の債務者に資力がなかった場合に、他の相続人との公平を失するので、当然に他の相続人は債務者の資力を担保するものとされた。なお弁済期に至らない債権及び停止条件付債権については、各共同相続人は、各共同相続人は弁済をすべき時における債務者の資力を担保する(民§912-Ⅱ)。

すでに成立した遺産分割を解除することは出来るのか?
共同相続人全員の合意による解除であれば法的安定性を害することはないのですることができます(最判平2.9.27)。ただし法定解除は法的安定性の要請からすることが出来ないというのが判例の立場です(最判平1.2.9)。法定解除とは、たとえば遺産分割協議によってある相続人が債務を負ったにもかかわらず、その相続人が債務を履行しない場合に、他の相続人が民法541条の規定に従って遺産分割を解除することです。
民法541条
催告による解除
「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行を催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、そのその期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない」。

賃貸建物を相続人ABのうちのAが単独で相続する旨の遺産分割が成立した場合被相続人の死亡時から遺産分割成立までに発生した賃料は誰に所属するのか?
遺産分割後の賃料債権はAのみに帰属しますが、死亡時から遺産分割までに生じた金銭債権たる賃料債権はA及びBに相続分に応じて帰属します。
「賃料債権は遺産とは別個の財産というべきであって各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である(最判平17.9.8)

土地を賃借していた相続人が死亡し共同相続CDのうちCが遺産分割の結果土地の借地権を相続することとなった。この場合相続人死亡時から遺産分割成立までの賃料は誰が負担するか?
CDが不可分債務として負担します。相続人死亡の時から遺産分割成立までは、共同相続人が土地を共同賃借していたことになりますが、共同賃借の場合、土地の使用が不可分であることから、賃料債務も反対の事情がない限り、不可分債務であるとされるからです(大判昭11.11.24)。




















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